鹿北製油[国産のごまで作る黒ごま油]

- Aira, Kagoshima

ごまの粒を焙煎して圧搾し、油を搾るという技術は、室町時代に考えられたものだと聞く。あの小さな小さな粒から油をとろうという、人間のあくなき探究心には頭が下がる。そんな原初の時代のままの、ごま油づくりに取り組んでいるのが「鹿北製油」だ。
「ぷ~んと香ばしくって、コクがある。ひとふりで、ガラリと風味が変わるごま油、大好きです。鹿児島で昔ながらのごま油を作っているメーカーがあると聞いて、いつか訪ねたいと、ずっと思っていました」と栗原 友さん。

昔ながらのごま油作りを再現

「鹿北製油」は昭和24年創業の植物性油脂製造メーカーだ。現在の和田久輝社長で2代目。「昭和59年、まだ先代の時代に、サラダ油の値段が389円まで下がったことがありました。そのときに、これはもう勝負できない。農家と共存共栄することで国産にこだわり、あえて質の高いものを作り、差別化をはかる以外に生き残る道はないと考えたのです」と和田さんは国産のごま油を作り始めたきっかけを語ってくれた。現在多くの植物性油脂は、薬品を使って搾り切っているが、せっかく国産のごまでの油作りを目指すなら、圧搾するだけで自然に油を搾る、昔ながらの製造工程を再現しようと、和田さんは考えた。まず、ごまを生産している農家を確保し、文献を研究しながら古い器具を買い集めるなどして工房を設営。1984年に初めて、国産の黒ごま油の製造に成功した。実は、この "黒ごま" というのが、ポイント。黒ごまのほうが明らかに風味が高いのだが、一般に出回っているごま油は、白ごまを焙煎して搾っているものが多い。それは、白ごまのほうが原価が安いと同時に、歩留まりがいいから。しかし、和田さんは原価を度外視し、あくまで黒ごまの風味にこだわり続け、商品名に「黒ごま油」と冠している。

すべてが手作りの工房へ

さっそく、工房に案内してもらった。「わー、タイムスリップしたみたい!」と歓声を上げるトモさん。工房では、黒ごま40kgをレンガ造りの窯で焙煎している真っ最中だ。あたり一面にごまを煎る香ばしい香りが漂っている。
鹿北製油の前掛けをした職人が、明治時代そのままの窯にせっせと薪をくべる。まずは第一の窯で低温でゆっくり1時間焙煎。そして第二の窯へ移して、温度を上げながら焙煎を続ける。
「ごま本来の甘い味が出るまできっちりと煎りごまにしないと、生臭さがでてしまうんですよ」と和田さんは説明する。

写真1・充分に温度が上がったら、煙を上げるごまを「ローラー」に移し、すりつぶす。
写真2・粗く挽かれたごまがざあっと流れてくるのを受けて集める。
写真3・樽状の蒸し器に移し、3分ほど蒸気を通す。蒸して、湿り気を与えることで、油の出をよくし、圧搾するときに飛び散るのを防ぐのだ。
写真4・そして、圧搾の工程。蒸したごまを鉄輪の桶にきっちりと敷きこんだ綿布の中に入れる。
写真5・綿布の上部を折りたたんで、上から体重をかけて足でふみこむ。
写真6・玉絞り器にセットし、ねじって圧力をかけていくと、鉄輪が少しずつ上に上がり、石臼の重さがかかってくる。一定の圧力がかかると透明の黄金色の液体があふれ出る。
写真7・口に含むと、ほのかに甘く、さっぱりしている。油というよりむしろごまのジュースだ。
写真8・1週間かけて、和紙で濾過することで、やっとごま油となる。
写真9・和紙も、みつまたやこうぞを漂白剤を使わずに漉いた昔ながらのものを使う。
写真10・濾過し終わったばかりの、ごま油をボトルに詰める。

できあがったごま油を試飲すると、「え、不思議! 絞ったばかりのごま油はまるでジュースのように爽やかだったのに、濾過したものは、ぐっと油らしさが増していますね」と、驚く。
それは、水分や不必要な異物がゆっくり取り除かれていく過程で、油がぎゅっと油らしさを増してくるからだろう。

鹿北製油のごま油が甘い理由

「それにしても、このごま油は甘いですね」とトモさん。低温で薪火で焙煎していることと、国産の黒ごまを使用していることの2つが主な要因だと和田さんがその理由を説明してくれた。
「甘みのもとは不飽和脂肪酸の中のリグナンという物質。焙煎の温度が高いとごまの香りが出、低いと甘みが出るというのは、経験値でわかっていたことですが、低いと実際にリグナンが多く抽出できると実証されました」と和田さん。
だから、鹿北製油ではゆっくり薪火で焙煎している。ただ、温度が低いと絞る際の歩留まりが悪い。大手では200℃前後で焙煎するのが常識だ。薪火にこだわる理由はもうひとつ、薪だとガスのように窯全体が一定温度にならず、結果的にいろいろな段階の焙煎の状態のごまが混ざることで、味に深みが出るからだという。
また、国産のごまのほうが、中国産などよりも、リグナンが多く含まれている。その違いがいちばん出るのは練りごまだという。石うすですりつぶしていくと、国産のものは明らかに甘みが出てくる。実はこのリグナン、甘いだけでなく、血液の循環をよくしたり、肝臓の働きを助け、冷え性、便秘にきくなど、効能も大。
「きちっと作ったものが美味しいだけでなく、より体にもいいというのは嬉しいことですね」とトモさん。

ごまの畑を訪ねて

国産のごまは、全国での使用量の0.01%にも満たない。しかしながら鹿北製油があくまでも国産にこだわるのには、食文化の継承という意味もある。そのために、現在700軒以上の農家と契約し、原料のごまを確保している。今回は、そのひとつである岩元さんの畑を案内してもらった。
ごまは2mほどの高さの一年草で、金魚草のような小さな花をつける。その後、種子の入ったさやが膨らみ、幹や葉が黄色く立ち枯れたころに採集する。ぷっくりしたさやを乾燥させたものを割ると、2×4列にびっしりと小さなごまが並んでいる。
「わあ可愛い!でも、一粒一粒どうやって取り出すの?」と、素朴な疑問が浮かぶ。
「さやが膨らんで、充分にごまが入ったことが確認できたら、根本から刈り取り、そのまま自然乾燥させます。充分に実が熟すと自然にさやの口が十文字にはじけるので、逆さにしてふると、ごまだけがバラバラと落ちるんです」と、岩元さん。なんとも優れた植物だ。その小さな種は人間に食べてもらうために神様が配したものなのかもしれない。

買い支えることの大切さ

これだけの手間と時間をかけて作ったごま油が、いったいいくらになるのであろうか? まず、ごまの値段が中国産と日本のものでは、20倍以上の開きがある。中国産なら1kg 80円。一方、鹿北製油では契約農家からは、1kg 1800円でごまを買い取る。1リットルのごま油を作るのに、黒ごまが6kgが要る。つまり、原価だけでも9600円。そして、さまざまな工程を経、最終的に270gが5775円の価格で売られる。決して安くはないけれど、あれだけの工程と手間を考えれば、妥当な値段でもある。
「1984年に黒ごま油を作り始めましたが、最初の10年ははっきりいって赤字でした。バブルが崩壊した頃から雑誌やテレビで紹介されるようりになり、少しずつ理解者、購買者も増え、なんとかもちこたえられました」と和田さんは言う。こうした真摯な取り組みを長く続かせるためには、買い支えていくことが絶対に必要。そのためには、使い方にもまた工夫がいるのかもしれない。トモさんも「炒めたり、揚げたり、加熱して用いるにはもったいないですね。極上のエクストラヴァージンオリーブオイルの感覚で、仕上げにふりかけ、甘みと香りを生かす。そんなふうに上手に使いたいですね」と頷いた。

渾身のレシピに乞ご期待!

国産練りごま黒

↓

フムス

From Producer
和田久輝さん

「ひと昔、ふた昔前の、植物油=サラダ油の時代から考えると、植物油をとりまく環境もずいぶん変わりました。多くの人は、サラダ油という名のもと、それが合成されたものであることも知らなかったのですから。実は皮肉にも、その原動力となったのは、オリーブオイルの普及です。平安の昔から、日本人は海外渡来のものに弱いんですね。でも、そのおかげで、ごま油をはじめ、なたね油、えごま油など、ほんものの油が見直されているのは嬉しいことです」

Profile
1961年生まれ。1949年創業の鹿北製油の2代目。先代から植物性油脂作りを学ぶが、国産のごま油の生産を志す。さまざまな文献にあたるなど、努力家で研究熱心。2008年、日本人で唯一、ごま油、なたね油、えごま油の農水省のマイスターに認定された。酒もたばこは一切やらず、旅行やツーリング、バレーボールが趣味の、健康的な生活を送る。

Tomo's Comment
「ほんとうにいい植物性の油脂は体にいい、ということが言われ始めたのは最近ですよね。ごま油はもともと大好きなので、体にもいいというのはとても嬉しいこと。しかも、国産のごまにきちんと手間をかけて作ったもののほうが、栄養効果的にも優れているということには驚きましたが、素晴らしいことですね」

鹿北製油

鹿児島県姶良郡湧水町米永3122-1

tel 0995-74-1755
fax 0995-74-1756

www.kahokuseiyu.co.jp


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  • 01 鹿児島ますや

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    蜜の入った安納芋
  • 03 鹿北製油

    国産のごまで作る黒ごま油
  • 03 坂元醸造

    壺で発酵・熟成させる黒酢
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    池浪刃物製作所


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