坂元醸造[壺で発酵・熟成させる黒酢]

- Kirishima-city, Kagoshima

真っ黒な壺の中で、米、麹、水が、太陽のエネルギーで自然に発酵することによりできる、黒酢。香りも味わいも個性的。苦手な人もいるけれど、はまるとすっかりはまってしまう。坂元の黒酢はそんな魅力を持った酢だ。もともと、中国料理からお惣菜まで、気軽に黒酢を使いこなして楽しんでいた栗原友さん。鹿児島に、江戸時代そのままの、黒酢の原点ともいうべき酢を造り続けるメーカーがあると聞き、醸造所を訪ねた。

坂元の黒酢の歴史

鹿児島県霧島市福山町で黒酢作りが始まったのは江戸時代後期のことと言われている。薩摩藩時代、交通の要として栄えた福山は、上納米の集積地であったため、原料となる米に事欠かず、薩摩焼の壺も容易に入手することができた。また、あたりの古い地層から出る豊富な湧き水は、藩内随一と珍重されたほどの名水。米、壺、水という3つの要素に加え、鹿児島の温暖な気候が功を奏し、黒酢作りが始まった。最盛期には24もの醸造所が切磋琢磨したが、戦前戦後の米の不足や、化学的に合成した酢の横行で撤退が相次ぎ、今では、本格的な黒酢の伝統を受け継ぐのは、坂元醸造を残す数軒となってしまった。

酢は壺の畑で造られる?

桜島を真正面に見据える海を背にしてゆるやかな坂道をのぼると、穏やかな秋の太陽を浴びて黒光りする、壺の大群が見えてくる。あたりには、酢の酸っぱい香りがぷんと漂っている。「うわー壮観ですね!まるで地面から壺が生えているみたい!」と目を丸くするトモさん。真っ黒な陶器の壺、52000本が林立するその場所こそが、黒酢が醸造される現場。古くから醸造所ではなく「壺畑」と呼び習わされている所以だ。一つ一つの壺の中では、仕込まれた米と水が、米麹を媒介に太陽の力を借りて、それぞれの段階で酢へと変化を続けている。仕込みは春秋、年2シーズン。坂元醸造を訪ねた10月下旬は、秋仕込みの終盤。黒酢造りのすべてを知る蔵元忠明工場長に "壺畑" での仕込みの過程を案内してもらった。

仕込み拝見

米に胞子をまぶして作る米麹。最初の発酵を促す役目を果たす。

蒸した米。玄米に近い、薄皮を少し削ったもの。

麹をふる際に胞子が舞い、あたりに広がる。

敷地内に引いた地下水を、ホースで上から注ぐ。

仕込みの最後のふり麹が終わった状態。

黒酢を仕込む薩摩焼の壺は、胴径約40cm、高さ60cmで54リットル入り。まず最初に、壺の底に混ぜ麹を敷き詰め、その上に蒸した米を重ねる。そして、地下水を壺の七分目、つまり、胴径の一番太いところまで注ぐ。そして最後に米麹を、液面のふたになるように一面に均一にふる。このふり麹が一番難しく、黒酢職人の腕のみせどころだという。
一連のこの仕込み作業は、4人1組になった黒酢職人のよって迅速にかつ的確に進められる。なにしろ壺の総数は5万2000本。新しく仕込む壺だけでも気が遠くなる数だ。こうして仕込みが終わると、昼間は太陽の熱で温まり、夜は冷却、という過程を繰り返しながら、酢への長い長いカウントダウンが始まる。
「今の時代に、一切の化石エネルギーを使わないで、壺の中で酢ができるって、すごいことですよね」と感じ入るトモさん。

工場長から聞いた、壺の中での化学変化をまとめてみると、以下の通りとなる。

1.仕込み直後から、米麹が蒸し米のでんぷんを分解してブドウ糖に変える、糖化という現象が始まる。
2.次にブドウ糖が、酵母の働きによってアルコールに変わる。この発酵は糖化と並行して進み、1~2ヶ月で完全にアルコールになる。
3.アルコールができると表面を覆っていたふり麹が沈み、酢酸菌によってアルコールが、酢の主成分である酢酸に変わる。仕込みから半年でちょうどこの状態になる。
4.その後、じっくり熟成させることで少しずつ色づき、黒酢となっていく。

子育てのごとく、酢を育てる

その間、黒酢職人は毎日、発酵や熟成の状態を確かめるために、ひとつずつ壺を見て回る。
その際に用いるのは自分で切り出した竹の枝1本だけ。液面にさしこんで色や透明度から熟成具合を確認し、ときには、熟成を促すために攪拌する。この熟成管理も江戸の昔から変わっていないそうだ。
「我々は "子育て" という表現を使っています。親が子供の顔色に毎日心を配るように、ふたを開け、竹の枝を入れて、状態を確かめ、ときに耳を近づけて発酵の音を聞くんです」と工場長。
「え、私にも聞こえるかな?」とトモさん。「ほんとだ、パチパチと泡が弾ける音が聞こえます。なんだかおしゃべりしてるみたい!」
「発酵の過程で音が変わってきます。もう充分発酵した、いやまだまだ、といった声を聞かせてくれるのです」
すべてが機械化の現代において、人間の五感を尊重したもの作りの姿勢は貴重だ。といって、もちろん、科学を否定しているわけではなく、コンピュータによるデータ管理も万全。そのうえで、あくまで熟練のワザや経験を重んじている。子供をコンピュータが育てられないのと同じことだ。
そして、最も経験が必要とされる判断が、出荷の見極めだ。液面から入れた竹の枝がどれくらいクリアに見えるか、また充分に熟成香がでているかなど、最終の判断はすべて人間がくだす。

熟成による味の違いを確認

スタンダードな黒酢は、半年発酵させたのち、1年を熟成にあてる。その間段々、黒酢らしい琥珀色になっていく。そして、加熱殺菌後に、1年熟成の「坂元のくろず」として販売される。
「さらに2年、3年と熟成させる黒酢もあります。それぞれ取り出してみると、ほら、こんなに色が違うんですよ」
「わー、綺麗。はっきりとグラデーションになってますね」
「順番に試飲してみてください」と工場長。
「1年もの、うん、さわかや。香りも強いけれど清々しい。2年ものになると味わいも香りも濃厚になってきます。3年ものになるとさらに深みが増して、香りも強さの中に柔らかさがでてきますね」
それにしてもツンとくる刺激臭がぜんぜんなく、豊かな旨みが感じられることに驚く。それは、黒酢の発酵に際して麹菌、乳酸菌、酵母、酢酸菌などのさまざまな微生物が関係して、アミノ酸、ペプチド、有機酸などが、複雑に形成されるからだと工場長は説明する。
「経験値からの旨みが科学でも実証されたということですね」と感心しきりのトモさんだ。
料理に用いると、酸味だけでなく、旨みの補強にもなり、塩や醤油などの調味料も少なくてすむと、二重にヘルシーだ。

まろやかなあんのかかった季節の天津飯。現在はかに入り塩あん。1260円

酸味と辛味のバランスがほどよい、特製サンラータン麺 945円

壺畑のシェフのスペシャルランチ2100円の中の酢豚もあんが美味。

黒酢メニューに舌鼓

「坂元醸造」では、黒酢のおいしさをもっと知ってもらいたいと、2010年春に、レストランをオープンした。大きくとった窓から、壺畑で仕込んでいる様子を眺めながら食事ができる。
メニューには、中国料理をベースに、オリジナルの工夫をこらした品が前菜からデザートまでがずらりと並ぶ。まず、しょうがと黒酢を炭酸で割ったドリンクが食前に出された。 「爽やかなのにコクがありますね!いいなあ、これ、さっそくやってみよう」と、すっかり気に入っている。
あれこれ頼んだメニューは、どれもおいしい。
そして、食後の杏仁豆腐で、実は乳製品との相性がいいことも発見。ぜひ、レシピに取り入れてみたいと、大張り切りだ。
最後に、全商品がずらりと揃った売店では、1年ものから順にテイスティング、切れ味やコクをあれこれ比べたのち、違いがはっきりと出る1年ものと3年ものを購入した。

渾身のレシピに乞ご期待!

From Producer
蔵元忠明さん

「毎日毎日、壺の状態を見ながら、つくづく実感するのは、わたしたちは黒酢を造っているのではなく、米と麹が上手に発酵できるように環境を整えてやっているだけだということです。あとは自分の力で育っていくしかないのです。まさに子育てだなと実感すると同時に、自然の力の偉大さに頭が下がります。竹の枝1本で黒酢の状態を見極められるようになるには、少なくとも5年はかかります。黒酢造りはそれだけ奥の深いものなのです」

Profile
1952年生まれ。1982年坂元醸造に入社。くろず職人への道を歩み始める。先輩たちに学び、また独自に文献などを研究しながら、くろず造りを極める。1993年責任のある工場長に任命され、現在に至る。座右の銘は「素のままに」。それはつまり、昔ながらのくろず造りをそのまま受け継ぐということでもあり、また、まざりっけのない、原料以外は何も使わない、という二つのことの象徴でもある。そんな素直な心を持って、若手の教育にも熱心。

Tomo's Comment
「なんでも機械化の現代において、こんなにもスローなモノづくりが今でも生きているのだということを知り、ほんとうに驚き、感心しました。あたりまえのように、毎日、商品としての食材を買って、料理をしている自分を見つめ直させてくれる、そんな光景でした。同時にこれは、江戸時代の製法が、細々と受け継がれてきたというだけではなく、大変な企業努力に支えられてきたということがわかりました。そういう意味では、現代の食品造りの一つの理想型なのかな、そんなふうにも思いました」

坂元醸造
tel 0120-207-717
www.kurozu.co.jp

坂元のくろず情報館「壺畑」

鹿児島県霧島市福山町福山3075
tel 0120-707-380

坂元のくろずレストラン「壺畑」
tel 0995-54-7700
www.tsubobatake.jp


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  • 01 鹿児島ますや

    原種に近い鹿児島黒豚
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    蜜の入った安納芋
  • 03 鹿北製油

    国産のごまで作る黒ごま油
  • 03 坂元醸造

    壺で発酵・熟成させる黒酢
  • 03 番外篇
    池浪刃物製作所


    本種子包丁と本種子鋏
  • 今月のレシピ[coming soon]
    鹿児島ますや
    ●豆乳ごま鍋の黒豚しゃぶしゃぶ
    ●ポークチョップのステーキ
     オニオン、マッシュポテト添え
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    ●グリーンベジのソテー ベーコン風味
    ●焼豚と香味野菜のサラダ
    南種子食糧
    ●安納芋のニョッキ ゴルゴンゾーラソース
    ●安納芋のポテトケーキ コーンソース
    鹿北製油
    ●ごま油の混ぜそば
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    坂元醸造
    ●かれいの唐揚げ 黒酢あんかけ
    ●生姜のはちみつ黒酢漬け

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