対談|桜井 武[熊本市現代美術館・館長]× 鈴木 芳雄[編集者]

- Contemporary Art Museum Kumamoto, Kumamoto

九州で初めての "現代" 美術館として、2002年10月にオープンした熊本市現代美術館(CAMK)。国際的に活躍するアーティストの大規模な個展をはじめ、地元の美術を歴史的に検証する展覧会など、現代的な問題意識に立脚した様々な展覧会やイベントを開催している。CAMKに訪れるのは今回が3回目という鈴木芳雄が、地方都市における現代美術館のあり方を桜井武館長に伺った。

「宮島達男」展と「井上雄彦」展

鈴木芳雄:熊本市現代美術館(CAMK)にお伺いするのは今回が3回目です。1度目は2005年に開催された『宮島達男—死の三部作』。東京オペラシティーアートギャラリーでも拝見しましたが、「Mega Death」が素晴らしかったです。2回目は2009年の『井上雄彦 最後のマンガ展 重版・熊本版』です。雑誌ブルータスで井上さんの特集(BRUTUS『緊急特集 井上雄彦』2008年7月1日号)を組ませていただき、上野の森美術館とこちら、そして大阪の天保山サントリミュージアムで拝見したことになります。CAMKでは壁にライブペインティングなどをされていましたよね?

桜井武館長:私は館長としてここに来たのが3年前なので、残念ながら『宮島達男—死の三部作』は見ていなのですが、井上雄彦展は非常にいい展覧会だったと思っております。熊本は武蔵の最後の土地ということもあり、井上さん自身も力が入っていたようでした。上野で素晴らしい展示を拝見したのですが、展覧会後には倉庫にしまってしまうと聞き、もったいないのでぜひCAMKに持ってきて欲しいとお願いしたんです。熊本で開催するということは、武蔵の道筋を考えると必然性があったのかなと思います。

鈴木:上野では『最後のマンガ展』と題されていましたが、CAMKのタイトルはマンガの増刷にかけて『重版』というタイトルとなり、とても面白いと思いました。

桜井:その後、大阪でも開催されましたが、それぞれの会場により全く空間構成が違いました。
CAMKはフラットなスペースなので、非常に劇的な空間を演出することができました。

鈴木:普通のマンガでは表現できない、美術館ならではの空間になっていたと思います。
そこをきちんと井上さんは追求していましたよね。

都市の中にある美術館

鈴木:僕にとってCAMKは宮島さんや井上さんの印象がありますが、常設にはジェームズ・タレルやマリーナ・アブラモビッチなど重要な作品もあります。街中にある美術館のモデルとして、CAMKは位置づけられるのではないかなと思います。

桜井:美術館のアイデンティテイは「建物」「ロケーション」「環境」です。例えば、ル・コルビジェの西洋美術館やSANAAが手がけた金沢の21世紀美術館などは、美術館の象徴として建築自体がインプットされています。しかし、CAMKは商業ビルの3〜5階にあり、建物としてのアイデンティテイが無い。そのため、他の美術館とは比べてやや異質な美術館なのです。

鈴木:美術館の歴史をみると、宮殿や帝国主義的な建物から始まりますね。あるいは大金持ちや貴族などのお屋敷だったり。博物館的な "驚異の部屋" を作りたかったからとか。そう考えると、CAMKのような近現代の人間の営みや活動に即した都市型の美術館がもっと沢山増えていいと思います。

桜井:街中にあるのでアクセスが非常によいというメリットがあります。より多くの人たちに来て欲しいですし、広く市民に解放されなければいけない。また九州の公立の美術館では唯一、"現代" 美術館と名がついています。CAMKが出来るまで、九州には現代美術館がなかったんです。"現代美術" とは今を生きているアーティストの作品であり、世界が変わり続けるその変化について、美術館は知らせていかなければいけないという義務もあります。ただ、いつからか「現代美術はわからないもの」という見え方をされてしまっていますよね。「現代美術では人は入らないでしょう?」と言われることも多々あるのですが、最近は日本の美術に対する変化を感じています。

鈴木:なるほど。2000年頃からの現代美術への関心の高まりは僕も感じています。

桜井:現代美術には実に多様なスタイルや表現があり、単に時系列で展開する美術は崩れています。私たちが刺激や感銘を受けるモノは何かというと、必ずしもモダンなものだけではない。CAMKでは作品の収集もしています。正直、オープン当時ほどの購入能力はないのですが、展覧会に即した作品や熊本、九州に関する作家の作品もを購入することにしています。コレクションの収集は、美術館の核となっているんです。

鈴木:美術館同士のネットワークはどのように考えているのでしょうか?

桜井:非常に重要だと思っています。基本的にCAMKは自主企画で、独自の展覧会をやっています。井上雄彦展も巡回ではないかと言われるのですが、自主企画なんですよ。巡回展が予定されていて、それを購入したのではなく、上野の展覧会を巡回させてしまったのです。井上さん自身も何度も熊本を訪れて、私たちと一緒に展覧会をつくりました。理屈のようですが(笑)、自主企画だと思っています。私たちは手作りで展覧会を企画しているので、美術館から収蔵作品をお借りする時にはネットワークはとても重要です。信頼関係がないと難しい。CAMKは全国的にも評価されていると考えていますし、情報をお互いに収集しながらネットワークを築きながら、発信もしています。

「熊本」をテーマにした企画展

桜井:現在企画展を開催してる舟越桂さんは、具象で人間そのものを木で表現しています。

鈴木:具象で仏像のような伝統的な技巧を用いていますよね。
1980年代から舟越さんの作品は拝見していますが、非常に現代的な作家だと思います。

桜井:決して保守的な古くさいアピールではなく、ものすごく新しい。その新しさは何なのかと考えさせられます。彼自身は職人的にリアルな人間の姿を彫っていますが、実際には首の長さなどバランスはとれているけれど、神秘的で非現実的です。

鈴木:アンバランス性も感じますし、顔の小ささなどを見ると理想を求めているのかもしれませんね。
今後はどのような企画展を予定しているのですか?

桜井:2011年には熊本のテーマである「水・火・大地」という企画展を考えています。実は熊本は、家庭や商業、工業もすべて地下水を使っているんですよ。トイレを使っても、蛇口をひねっても、すべてがミネラルウォーターです。

鈴木:そんなに地下水が豊富なんですね。熊本出身のある女性が言っていたのですが、東京で暮らしていると肌の調子が悪いけれど、熊本の実家に帰ると1週間で洗顔するだけで肌が元に戻るといっていました。きっと水がいいからでしょう。

桜井:私自身は熊本の出身ではないのですが、「熊本の水」については誇りに思っています。ただ、みんな誇りに思ってはいるのですが、水は地下水なので見えない。熊本には沢山の観光客が来てくださり熊本城や阿蘇を楽しんでもらえるのですが、滝や人造湖がないので水を見ることができないんです。

鈴木:それで「水」をテーマにした展覧会を企画されていると。

桜井:はい。日本人の作家とイギリスの作家が参加するグループ展を企画しています。東京から熊本を見るととても遠くに感じるかと思いますが、私たちから見ると東京はとても近く感じます。通信技術もあるので、東京の情報は熊本にすぐ届きます。
しかし、熊本の情報は東京にはなかなかつづきにくい。熊本が誇りとすることをきちんと伝えていきたいと思っています。
さらに、2011年3月には新幹線が開通するので、熊本はもちろん九州も変わって行くと思っています。


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