対談|立元史郎[霧島アートの森・学芸課長]× 鈴木 芳雄[編集者]

- KIRISHIMA OPEN-AIR MUSEUM, Kagoshima

発光ダイオードを用いた作品を制作しているアーティスト、ジェニー・ホルツァー。本作「ブルー」1998は、人間の生をテーマに個人的な関係について綴られた文章が表示される作品。「ジェニー・ホルツァーの作品は、1980年代にNYのDia ファウンデーションで初めて見ました。グッケンハイム美術館全体にメッセージを流したり、タイムズスクエアの掲示板を使った作品で大変注目されました」

鑑賞の手引きとなる「作品解説」と「作家のプロフィール」が書かれたカード。すべての作品に用意されており、無料で持ち帰ることができる。

鹿児島県・霧島山麓の標高約700mに位置する「霧島アートの森」。草間彌生やダニ・カラバン、アントニー・ゴームリーなどの22人の作家の野外作品をはじめ、オノ・ヨーコ、ナムジュン・パイク、村上隆など屋内作品40点のコレクションを所蔵している。また年2回の企画展では、蜷川実花や鴻池朋子など若手アーティストの個展も開催。10年間の間に開催された数々の企画展を振り返りながら、「霧島アートの森」の魅力について立元史郎学芸課長と鈴木芳雄が語る。

非日常を体験できる美術館

立元史郎学芸課長:"霧島に文化施設を作る" という県のプロジェクトから「霧島アートの森」はスタートしました。蓋を空けてみると、公園のような森を生かしながら、現代美術の美術館に成りつつあるという状況です。

鈴木芳雄:前回は野外の展示を拝見し、今回はコレクション展を拝見しました。すごくいい作品がいい環境で展示されていると思います。九州でいえば、熊本市現代美術館のような街の中にある美術館もいいし、また森の中にある「霧島アートの森」のような美術館もあるというのはいいですね。

立元:私たちが目指しているのは "非日常的な空間" です。なるべく、メンテナンスのための車のエンジンの音や作業の音が出ないように努力しています。

鈴木:セミナーやシンポジウムを頻繁に開催されていますが、アーティストインレジデンスはやっているのですか?

立元:企画展に連動した形でやっています。オープン当初はチェ・ジョンファを呼んで1週間くらい寝泊まりして制作しましたし、ヤノベケンジさんの個展の際も滞在制作をしていただきました。2009年の鴻池朋子展では屋内だけでなく、初の野外展示もしました。地元の高校生から参加者を募集して一緒に制作をするというプロジェクトでした。

鈴木:とても評判がよかったとお聞きしています。美術館としてのあり方でいえば、東京オペラシティアートギャラリーのような都市型の美術館と「霧島アートの森」のような自然に囲まれた場所での展示では、作家にとっても全く違ったアプローチで制作が出来るので面白いと思います。街中の美術館と違いここまで山を登って来るのはとても大変ですが、実際に来てみると素晴らしい非日常な体験が出来る。それは大切なことだと思います。

脱ぎ捨てられた作業衣を、日本の伝統的な木彫技術で表現した黒蕨壮の作品「チョット休憩」1985。同じく木彫りの舟越桂の作品(現在は熊本市現代美術館の『舟越桂展 2010』に貸し出し中)とともに展示することが多く、人体表現の比較を楽しむことが出来る。

中村晋也、池川直、楠本香代子など、九州にゆかりのある彫刻家の作品も多数コレクションされている。

立元:公園として認識していて入ってみてから、現代美術の美術館だと気づく人もいます。はじめの目的は違っていたとしても、最後には「現代美術を楽しめてよかった」とよく言われます。

鈴木:公園だと思って自然に遊んでいる子供が、何かひとつでも覚えて帰ってくれたらいいですよね。何年か経って、山にたたずむボロフスキーやチェ・ジョンファの作品を思い出すとか。

立元:チェ・ジョンファが来日した時、子供たちはすごく感動してくれました。大自然の中で国際的な作家と触れ合うことができるというのは鹿児島では「霧島アートの森」でしか出来ないことです。

鈴木:その子供たちの中から、新しいアーティストが生まれるかもしれませんね。大阪万博の地元から、ヤノベケンジが生まれたように「霧島アートの森」があったからアーティストになった、という人が10年に一人くらいでてきたら面白いですね。

立元:それは期待したいですし、教育というのも私達の役目だと思っています。年2回の企画展とはいえ人手や予算などとても大変です。美術館としては、続けて行くことが課題だと思っています。

鈴木:直島のような複合的にホテルを作ろうという計画は立ち上がらないのですか?

立元:それが出来れば理想だとは思いますが、現段階では湧水町が進めている彫刻のある町づくりなどで精一杯ですね。小さな町なので、逆にすぐそばにホテルやレジャー施設が出来るのも自然との兼ね合いでなかなか難しいかなとも思います。

鈴木:「霧島アートの森」が主導して、自然の中でキャンプなどができれば面白いですよね。

立元:実は、オープン当初「アートキャンプ」というイベントをやっていたんです。作家を呼んでキャンプをしながら作品を作ったりしましたが、予定していた以上に応募が多く、限られた人数しか体験できない企画だったので予算がかけられず、今はやっていません。

鈴木:そうですか。先日セミナーに来られた脳科学者の茂木健一郎さんから、霧島アートの森の近くにとてもいい温泉があると聞きました。アートを見て、温泉へ入り、鹿児島の名産を食べれるようなパックツアーがあればいいんですけどね。

新しいモノを受け入れる鹿児島人

トニー・クラッグの作品「ノーティラス」1997。「壁に吊るす作品やリサイクルアートのような作品もありますが、これは彫刻としても美しい作品ですね」

開館10周年を記念して過去の企画展の模様を展示した「霧島アートの森 特別企画展記録 パネルコーナー」。

立元:鹿児島の人は "新しいモノが好き" という気風があるんです。歴史を紐解いても、薩摩藩主・島津斉彬の頃から新しい日本を作るというハイカラな所があります。私が鹿児島市立美術館に在職していた時、20世紀を代表するモダンアートの巨匠、ルーチョ・フォンタナ展を開催したことがありました。当時の地方ではむずかしい現代美術ですが、市長を始め多くの方々から面白い!という反応をいただいて、東京で開催した時と同じくらいお客様も入りました。

鈴木:それはすごいですね。

立元:現代美術が九州、はたまた鹿児島で受け入れられるのを不思議に思う人も多いようですが、鹿児島の人は新しいモノを受け入れる力を持っているのだと思います。昨年開催した、三沢厚彦展も3万人が来場しました。九州で初めての展覧会でしたので、九州各県からも多くの方が来てくださいました。また、韓国や中国が近いのでアジアからのお客様も多いです。

鈴木:前回、野外彫刻と三沢厚彦展を見に訪れた時は季節もよかったです。夏と秋に企画展があり、冬はコレクション展をやられているんですよね?

立元:元々はオープンエアーミュージアムというテーマなので、屋内の展示は考えていなかったんです。当初は中核施設として立てられました。

鈴木:その割には随分立派な建物ですよね。

立元:オープンした当時はオフィスの中もガラス張りで全部見ることが出来ました。中で働く私達も作品のひとつであるというコンセプトだったのですが、作業をすべて見られてしまうので、さすがに色々と難しくなってしまいまして(笑)。宇宙船のような降り立った建物は、いくつか建築の賞もいただきました。

鈴木:野外彫刻の中では、ダニ・カラヴァンが素晴らしかったです。日本では他にみることができるのでしょうか?

立元:札幌や箱根にもあります。霧島アートの森は、箱根の彫刻の森と札幌芸術の森とともに「森の連絡会」を開催し、お互いに情報交換をしています。ダニ・カラヴァンの作品は、ご本人もとても気に入ってくださったようで、わざわざイスラエルから記者を連れて取材に来たり、ダンサーの娘さんがパフォーマンスをしたこともあります。前回、鈴木さんがいらっしゃた時は曇りでしたが、今日は晴れているのでまた違った景色をみることができるはずです。季節によって楽しめるのが野外彫刻の面白さなので、何度も「霧島アートの森」に訪れて欲しいですね。

前回、夏に訪れた時には雨が降っており、ジョナサン・ボロフスキーの作品には霧がかかっていたが、
今回は遠くの桜島がみえるほどの快晴となった。

野外の常設展示を立元学芸課長の案内で巡る。霧島アートの森には植物が約210種類あり、渡り鳥は約80種類やってくるとか。

夏に訪れた時には緑に囲まれていたアントニー・ゴームリーの作品。冬になり葉っぱが落ちたことで、木と一体化した彫刻の本来の姿をみることができた。

木や植物が生い茂る森の中を探索しながら、森の中に点在する彫刻作品を探す。

建築家グループ、カサグランデ&リンターラの作品。曇りの為に前回はみることができなかった“太陽の光”が差し込み、白い壁に写る木の影が美しい空間を演出している。


霧島アートの森

鹿児島県姶良郡湧水町木場6340番地220
tel 0995-74-5945

開園時間:9:00~17:00(入園は16:30まで)

休園日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
年末年始(12/29~1/2)
臨時休園(2月の第3月曜日~第4月曜日)

入場料:一般300円 / 高・大学生200円
小・中学生150円 / 幼児 無料

open-air-museum.org
 

"フクヘン" こと元BRUTUS副編集長、鈴木芳雄が案内する九州のアート ART in KYUSHU 第1回 霧島アートの森[前編]

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