松翁軒[カステラの老舗]

- Nagasaki-city, Nagasaki

そしてもうひとつ、長崎といえば、忘れてならないのがカステラだ。ふんわり、しっとりした甘い生地の底に、ジャリッと沈んだざらめが、みんな大好き。長崎でも3本の指に入る老舗の松翁軒が、「ぜひ、カステラづくりの工程を見てみたいんです」というトモさんの願いを叶えてくれた。

風格ある、松翁軒本店の店構え。2階には喫茶室。1階のショプで購入すると、試食用に切れ出してくれるなど、ホスピタリティを感じる。

カステラの歴史を巡る

室町時代の終わりといえば、世界は大航海時代のただ中。開港したばかりの長崎港に、ポルトガル人が西欧の食文化を伝え始めた。カステラもその一つ。当時のカスティーリャ王国のパンとして伝えられたという説もあるが、現在のカステラとは味も形も異なるものだったよう。その後、江戸幕府が擁立され、鎖国が始まるまでの70年間、ポルトガル人が滞在する中で、独自の進化を遂げたのだという。当時はごく貴重であった砂糖がふんだんに使えたことから、菓子づくりが長崎の町に根付いていくなかで、カステラの専門店もできていった。1681年創業の「松翁軒」もその一つ。「福砂屋」、「文明堂」と並ぶ老舗だ。

焼いている途中に、へらで生地を混ぜる独特の手法も、明治時代から変わらない。

明治時代から変わらない配合

工場長の岡部義孝さんに、製作の現場を案内してもらった。「いつ頃から、今のようなカステラが作られるようになったのでしょう」のトモさんの質問に「明治時代には、すでに今の、配合は完成していました。坂本龍馬が好んだ様子なども、文献に残っていますから、作り方としては、江戸時代には、ほぼ今の形になったのでしょう」と答える。明治時代に記された割は、「粉1kg160gに対して、砂糖が2.7kg、そのうちざらめと上白糖の割合が6:4。卵は2.8kg」。150年以上経つ今も、その配合からまったく変わっていないというのだから、すごい。いかにそれが完成度の高いものであるかがわかる。なんのためらいもなく公開しているのも、自信の裏返しでもあるのだろう。
現在の工場は、0000年に建て替えられた。昔と比べれば近代的な設備になったとはいえ、壁際には旧式なオーブンが15台ほど並ぶ、独特のスタイル。炭火の窯がガス窯に代わっただけで、そのほかの作業工程はほぼ同じというのだからすごい。

1人で1台、がおいしさの秘密

「私どもが誇れることは、なんといっても、丁寧な少量生産です。ラインを引いての大量生産ではなく、スタッフ一人一人が卵の泡立てから焼き上げまで、責任を持って仕上げていく、伝統のスタイルを守っています」と胸を張る工場長。「一人前に焼けるようになるまでにはどれくらいかかるのでしょう?」と尋ねると、「少なくとも2~3年はかかります」と。う~ん、毎日が修業である。
「いちばん難しいのはどこですか?」の問いには、
「どこまで火を入れればいいかという、焼き上げのタイミングの見極めです。完全に焼き切らないようにします。焼きすぎてはしっとり感がでない」と。完璧なカステラを焼き上げるのは想像を軽く超えた難しさなのだろう。

1.卵、上白糖、ザラメを業務用のキッチンエイドミキサーで攪拌し、白っぽくふっくらしたら、水飴を加え、さらになめらかになるまで攪拌する。
2.銅の大きなボウルに移し、ふるった小麦粉を加えてさっくり合わせる。
3.型に流して表面をならし、オーブンに入れる。
4.途中、3回ほど生地の上下を返すように混ぜ、泡切りする。
5.表面に焼き色をつけ、木枠をのせて、鉄板をのせて焼きあげる。
6.八分目まで浮かしたら2本目の木枠をのせてさらに焼く。
7.オーブンから取り出し、枠紙をはがし、木枠をはずしてそのまま一晩ねかせ、翌日切り分ける。底に沈んだザラメが、あの、じゃりじゃりとなって焼き上がる。

スポンジ生地との違いはどこ?

粉、卵、砂糖で焼き上げるカステラが、スポンジ生地の親戚であることは容易に想像がつく。けれど、口に含んだときの、独特のしっとり感と懐かしい甘さは、まぎれもなく和菓子。「決定的な違いはどこにあるのかしら?」と首をかしげると、工場長の岡部さんは、4つの理由を挙げてくれた。

● ザラメを使うこと。上白糖より糖度が高く、より深い甘みが出ると同時に、底にザラメが沈んで、独特の食感が生まれる。
● 水あめを加えること。生地がしっとり仕上がる。
● 焼いている途中での中混ぜ。スポンジ生地ではご法度のこの技は、生地の温度を一定にし、ザラメを全体にいきわたらせ、キメの細かさを増すためだという。
● 限りなく砂糖が多く、粉が少ない配合であること。

これらはすべて、室町時代から始まる長い歴史の中で、先人たちが少しずつ、経験の中から学び、改良に改良を重ねた結果だという。
「なるほど! これで、スポンジの軽やかなふんわり感とはまったく違う、独特のしっとり感が生まれるのですね」
もちろん、これだけのクオリティを実現できるのは、材料にもとことんこだわっているから。卵は、黄身が濃く、白身がプリッとした島原の養鶏農家の産を、最高級のザラメや水あめ、そして、カステラ専用に精製している保水性に優れた小麦粉を使用している。

抹茶カステラ用に、なめらかに溶いた抹茶を加えて生地を仕上げる。
「円形に焼いたカステラに、砂糖がけする工程が愛らしくて見入ってしまいますね」とトモさん。

時代とともに広がる楽しみ

抹茶入りやチョコレート入りなど、生地のバリエーションができたのは、先々代の時代。抹茶やチョコレートの原材料のクオイリティから、配合まで研究を重ね、ラインアップに加わった。また、長崎の結婚式には欠かせない桃カステラは、明治の終から大正にかけて仲間入りを果たした。
そしてもう一つ、長崎好きを名乗るなら、ぜひ知っておきたいのが五三焼だ。おみやげに買って帰れば、「お、長崎通!」思われること間違いなし。それは、江戸時代に五味カステラの名で作られたワンランク上のカステラで、明治に入って、五三焼の名で受け継がれて今に至る。卵黄を増やし、その分卵白を減らし、砂糖も増量して、よりしっとりとした焼き上がりを実現したもの。工場では、ちょうど、五三焼の端を次々切り落としているところだ。ひときわ黄色があでやかな切れ端を、たっぷりおみやげにいただいて、大感激。
「普通に食べる以外にお薦めの食べ方ってありますか?」とトモさんが聞けば、
「牛乳にひたすと懐かしいおいしさになります。冷凍して半解凍になったものを薄切りにしてシャリッと食べるのもいいですね」
「わーおいしそう。早速、試してみます!」。香ばしい切り落としをかじりながら、約束した。

渾身のレシピに乞ご期待!

From Producer
岡部 義孝さん

「うちの工場で、1日約200枚のカステラを焼きます。一人1日15枚くらいでしょうか。年間にしたら、4000枚くらい。それでも、これは、と、満足のいく焼き上がりになるのは日に何枚もありません。もちろん、一般の方からはわからない差異ですけれど。350年の歴史をかけて完成されたカステラ作りというのは、それほどに、奥が深いものなのです」

Profile
長崎生まれ。松翁軒に入社し、カステラ作りひと筋に励んで00年の熟練の名手。趣味は登山。山には必ずカステラを持っていくという。栄養があって腹持ちのいいカステラは山に最適。冬山では、凍ってものどを通るので、携行食として最適と、意外なカステラの利点も推奨。

Tomo's Comment
「カステラが嫌いな日本人ってまずいないですよね。この謎が、松翁軒の工場で丁寧にカステラを作る工程を見てわかりました。350年の歴史の中で、日本人の本質的な好みに沿うように、少しずつ少しずつ改良が加えられて、ゆるぎないレシピとして完成したものだからなのですね。そう思って、カステラを食べると、おいしさ、ひとしおですよ」

松翁軒

長崎県長崎市魚の町3-19

tel 095-822-0410

www.shooken.com


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  • 01 本村製麺工場

    自家栽培の小麦で作る島原素麺
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    からすみの最高峰
  • 03 海産工房 梅元

    無添加干物
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    [白浜の岩場で牡蠣漁]
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    カステラの老舗
  • 今月のレシピ
    本村製麺工場
    ●素麺の冷や汁風
    ●素麺サラダ
    藤井からすみ店
    ●風呂吹き大根のからすみ添え
    ●からすみのスパゲティ サルデニア風
    ●新じゃがのボッタルガマヨネーズサラダ
    ●鯛のカルパッチョ 生からすみソース
    海産工房 梅元
    ●太刀魚のきゅうりソース
    ●鯖の燻製のタルタルサンドイッチスモーク
    松翁軒
    ●五三焼のココナッツミルクアイス

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