沈壽官窯を訪ねて

- Hioki-city, Kagoshima

薩摩焼を代表する窯元「沈壽官窯」。壮麗な門の内には、隅々にまで手入れの行き届いた、美しい庭が広がる。右手に歴代の作品を収めた資料館(残念ながら、訪問時には改装中。4月にリニューアルオープン)、左手に韓国領事館を見ながら進むと、店舗の奥に、歴史ある登窯が勇壮な姿を見せる。

15代作の茶碗。柔らかな地肌の白薩摩に藍の縁が美しい。
上左:歴代の沈壽官窯の作品がおさめられた収蔵庫。 上右:司馬遼太郎の『故郷忘れじがたく候』を記念した石碑。 下左:1880年代に建立された勇壮な登窯。当時の姿形のまま、今も使用している。 下右:登窯の構を説明する児玉尚昭さんの言葉に熱心に耳を傾ける長尾智子さん。

15代に至る沈家の歴史

まずは、沈家の歴史を紐解いてみよう。陶工の一人であり、時に広報の役目も担う児玉尚昭さんに案内してもらった。
「初代は、島津家が連行した80人の陶工の中の一人。名を沈当吉と言いました。串木野の島平に着船後、苗代川に開窯。3代が、藩主より陶一の名を授かり、以来、代々島津家御用の器を焼くこととなりました。幕末には、天才と称された12代が万博などを通じて、「沈壽官窯」の名を内外に知らしめたのです。その後廃藩置県に伴って藩営焼所が廃止されましたが、12代は私財を投じて工場を引きつぐなど、苗代川再興に尽力。近代薩摩焼を確立しました。そして14代は司馬遼太郎の『故郷忘れじがたく候』で主人公として描かれ、平成元年には、天皇陛下から日本人初の大韓民国名誉総領事に承認。邸内に韓国領事館が設けられているのはそのためです」と児玉さん。
現在は、14代存命中に15代が沈壽官を襲名。伝統を受け継ぎながら、現代の生活をより豊かに彩る器の製造に邁進する。

中左:陶片が敷き詰められた庭が美しい。石碑には焼酎のお供えが。 中右:飛び石づたいに庭園を歩く。 下左:登窯は神棚が祀られている、神聖な場所。火を入れる都度に無事を祈る。 下右:古い時代の煉瓦が積み上げられた登窯。

沈壽官窯の魅力

長尾智子さんが沈壽官窯に出会ったのは、司馬遼太郎の小説『故郷忘れじがたく候』の中のこと。いつの日か…、の夢を叶えて沈壽官窯を訪れると、ひと目で、品のある姿形としっとりとした土肌に魅せられた。以来、知るほどに敬愛の念を深めていく。窯への訪問は今回で3度めだ。
「いつ訪れても、邸内の美しさには感銘を受けます。毎朝、30人の陶工の方達が全員で掃除をすると聞き、なるほど、と、頷きました。器にも、その精神的な鍛錬が気高さとなって表れているのだと思います。今回、名古屋三越の個展開催中で、15代にお目にかかれなかったのは残念ですが、作品の展示場にある茶碗や茶入れの凛とした美しさは印象的でした。また、ショップで販売されている白薩摩のぐい呑み、これは、もう本当に欲しくなるほど綺麗。あまりお酒はいただかないのですが、いかにも薄手で品がよく、これで飲んだらさぞおいしいだろうなと思いました。遠く初代の陶工たちから受け継がれた確かな技術と、誇り高きデザイン、その二つが、現在の沈壽官窯の魅力なのだと思います」と長尾さんは言う。

沈壽官窯の器ができるまで

現在は30人に及ぶ陶工が、土作りから、ろくろ、釉薬、絵付けと、分業で製品作りを行っている。年4~5回、伝統的な登窯を使用して焼くほかは、器の性質に合わせて、ガス窯、電気窯を使い分けて製品を仕上げる。もちろんのこと、それらすべてのデザインを起こし、プロデュースをするのは15代の役目だ。15代はまた、茶道具の製作や、個展への出品など、自身の作陶活動にも意欲的。2階の展示室では、代表作を見学できる。洗練された中にも白い土肌の温かみを感じさせる茶碗、気品の中にも愛らしさの宿るなつめや茶入れ、また、金襴手や透かし彫りなど、先代から受け継いだ緻密な装飾を施した花器や香炉など、見ごたえ充分だ。


写真 上:作業場はガラス張りで、外からさまざまな製造の工程が見学できる。
2段目 左:ろくろをひく作業。若い陶工が多いのは嬉しい。
2段目 右:熟練の技を要する細かな絵付けの作業。
3段目 左:1日目は下の焚口から薪を入れ、1000℃までゆっくり上げていく。2日目の朝からはどんどん薪をくべて1300℃まで温度を上げる。その際は油分の多い松の木を用いる。2日目の夜にはそれぞれの部屋に横から薪を挿し込み、部分的に温度を調整する。最終的には、入り口すぐ脇に置いたテストピースで、焼き上がりを判断。その後3日かけてゆっくり冷まし、窯出し。
3段目 右:部屋の左右上下どこに器を置くかで、火力や灰のかぶり方が異なり、焼き上がりがまったく異なる。
4段目 左:こちんと言われる、作品を焼くときに足がわりに置く台。
4段目 右:いくつもさやぼしを重ねることで、直接炎をかぶらずに焼くことができる。6室すべてに入れると、作品数は数千点に及ぶ。陶工全員で1ヶ月半かけて製作し、その後焼成。


写真上:ショップをぐるりとひとまわり。じっくり器を眺める長尾さん。 下左:シンプルな白薩摩の向付や小鉢が並ぶ。 下右:2階の展示室に飾られらた、15代作の金襴での茶碗。

甘夏、ポメロ、黄みかんを合わせてざっくりと盛る
ざぼんと文旦の砂糖漬けには紅茶を添えて
素朴なふくれ菓子とボーロがぐっと引き立つ

 

沈壽官窯

鹿児島県日置市東市来町美山1715

tel 099-274-2358[代表]

www.chin-jukan.co.jp


写真上:「お久しぶり」と、鹿児島での再会を喜ぶ長尾さんと中原さん。 2段目 左:ナチュラルな白木のテーブルの上に軽やかにディスプレイ。 2段目 右:ヘジョンさんが手でおこしたデザインというだけあって、すっぽりと手になじむ。 3段目 左:ブルームと名付けられた、薄手の白磁の入れ子鉢。今にも花びらが開くような息吹を感じる。 3段目 右:真珠のような光沢をもった、パールシリーズの浅鉢。 下:15代がデザインしたアップルシリーズ。華やかなシュガーポット。

CHIN JUKAN POTTERY STORE を訪ねて

一転、こちらは、鹿児島市内の複合商業施設「マルヤガーデンズ」の10階。デザイナー・ナガオカケンメイ氏のプロデュースするD&DEPARTMENTの一角に、この3月「CHIN JUKAN POTTERY STORE」はオープンした。15代沈壽官と、鹿児島での家具製作がベースのランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんが、気鋭の女流陶芸家キム・ヘジョン氏を招いて、共同で製作した陶器のシリーズを展開するショップだ。ブルームと名付けられた、薄手の白磁の入れ子鉢や、ハーフムーンという名の平皿、パールシリーズの浅鉢…。いずれも、自然の中にモチーフを求めた、たおやかなフォルムと優しい色合いが魅力だ。
「薩摩をアルファベットで書くと、SATSUMA WEAR、薩摩焼のことを指します。つまり薩摩焼は、海外で名前が知られるほどグローバルな魅力を持つ焼きものなのです。その伝統を大切にしながら、ヘジョンさんには現代の食卓に合うモダンな器を考えてもらいました」と中原さんは言う。
CHIN JUKAN POTTERY の器は、図面やスケッチからではなく、ヘギョンさんが実際に粘土に触れて生まれたフォルムからデザインをおこし、沈壽官窯の土と釉薬、そして窯を使い焼き上げている。釉薬は白、黄色、ブルーの3色。それぞれにニュアンスのある淡い色の発色が美しい。
「手にとると、薄手でしなやかでとても気持ちがいい。何を盛ろうかなと、楽しみになります」と長尾さん。
また、陰影のあるフォルムと艶やかな光沢が美しいりんごのシュガーポットは15代の作。他にもランドスケーププロダクツのウッドプレートなどが手頃な価格で揃い、楽しい。薩摩焼の可能性を探る、これからが楽しみなプロジェクト&ショップだ。

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ランドスケーププロダクツ●デザイナーの中原慎一郎氏をトップに、1940年~60年代の古き良きデザインをルーツにした、新しいものづくりを目指す。住宅、店舗、オフィスなどの設計施工から家具製作、子供服のプロデュースまで、人々の生活をより楽しくするプロジェクトを手がける。

キム ヘジョン●東京生まれ。韓国で陶芸を学び、芸大を経て、2000年に渡英。ロンドン チェルシー クラフトフェアで、ベスト ドメスティック プロダクト賞を受賞。2007年よりソウルに工房を設ける。大学教授である父親が14代沈壽官と親交があり、その縁で今回のプロジェクトが実現した。

CHIN JUKAN POTTERY STORE

鹿児島県鹿児島市呉服町6-5 マルヤガーデンズ4F

tel & fax 099-248-7804

www.chinjukanpottery.com


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