まだまだある熊本の魅力を訪ねて

- Kumamoto

長期間熟成させた本格派、スペイン産生ハムの盛り合わせ 1,200円。

長尾さんイチ押しのIRATYでバスク料理に舌鼓

夜は熊本の市内へ戻り、バスク料理のレストラン「IRATY」で、美味の数々と美酒を味わった。長尾さんが熊本を訪れた際に、偶然に出会い、以来、来訪するたびに寄るという、お気に入りのレストランだ。路地の奥にひっそりと佇むその構えは、すでに美味しい予感に満ちている。ロゴの描かれた愛らしい扉を開ければ、カウンターの上に吊るされた生ハムの骨が目にとびこみ、期待が高まる。
「絶対にこれは食べてね」と、長尾さんがシェフと相談してチョイスした前菜は「スペイン産生ハム」、「あたたかいお魚のテリーヌ 」、「車海老、甲いか、あさりのマリナーラ」、「ひよこ豆、白いんげん豆、牛スジ、キャベツのごた煮」。前菜を一口食べて、「んー、旨!」の声に、長尾さんも「でしょう」と、にっこり。天草からのロングドライブですっかりお腹がすいた皆、食欲全開。メインは、「熊本の赤牛ロースの炭火焼、フランス産野生のアスパラガス添え」。長尾さんが牛ステーキを切り分けると、ジューシーなミディアムレアの断面が顔を見せ、盛り上がりも最高潮。エスプレッソで締めくくる頃には、すっかり大満足。乾杯のカヴァと、スペインの白、赤をボトルで頼んで、締めて20,000円とは、頭が下がる。聞けば、シェフの穴見さんは、フランス側のバスク地方と、スペイン側のバスクの両方で修業を積んだことがあるという、貴重な経歴の持ち主。そんな懐の深さが味の深さにもつながっている。我が町にIRATYがあれば、皆がそう思ったに違いない。

上左:鮮度抜群の魚介車海老、甲いか、あさりのマリナーラ 1,200円。
上中:旨みが凝縮した、あたたかいお魚のテリーヌ 1,000円。
上右:ひよこ豆、白いんげん豆、牛スジ、キャベツのごた煮 950円は、どこか懐かしいおいしさ。
下左:大迫力の熊本の赤牛ロースの炭火焼、フランス産野生のアスパラガス添え 5,800円。
下中:デザートはお米の牛乳煮 500円(左)と、バニラのプリン5,000円(右)。
下右:オープンキッチンを一人で切り盛りする穴見正博シェフ。
IRATY

熊本県熊本市上通7-35

tel 096-356-1880
営業時間:12:00~13:30 L.O./18:00~22:00 L.O.
定休日:火曜日


園田屋で朝鮮飴作りを拝見

朝鮮飴の歴史を紐解く

翌朝は、熊本屈指の銘菓「朝鮮飴」で知られる園田屋を訪ねた。弾力のある心地よい歯応えのあとに、上品な余韻を残す朝鮮飴は、長尾さんも大好きなお菓子。取材のための来訪は2度目だが、工房で作り方を見せてもらうのは初めてと、興味津々だ。「朝鮮飴という名に、朝鮮伝来と思う方も多いかもしれませんが、そうではないのです。豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、加藤清正公が兵糧食として携行したところ、大変に好評で、朝鮮飴の名を賜りました」と18代目主人の園田耕一さんは説明する。以来、城中で買い上げの菓子となり、参勤交代の際には将軍家へ献上され、全国的にその名が轟いた。製造元である園田家は苗字帯刀を許され、身分は武士であったという。明治維新後、一般に購入できるようになった朝鮮飴を、地元の人々がいかに誇りを持ったかは想像にかたくない。

上:現在の店は、明治時代に建てられたもの。
下:柿求肥(左)、朝鮮飴(右)を、熊本小代焼瑞穂窯、福田るいさん作の器に盛りつけて。 
上左:練り上げた飴を、釜から素手で木箱に移す。 上右:80℃近い飴はとろとろにとけている。下左:木箱に入れたまま、3日ほど乾燥させる。 下右:切り分けた朝鮮飴に片栗粉をまぶす。

職人技に感嘆する

その独特の製法は、中国、明代の僧侶が伝えた飴作りがもとになっている。それはまた、求肥の起源でもある。まずもち米をといで水に浸し、水にさらしながら石臼で挽く。釜に移して練り、途中水飴と砂糖を加えてさらに数時間練り続ける。とろとろになった80℃にもなる熱い飴を素手で木箱に移し、そのまま2日ほど乾燥させる。その後、片栗粉をたっぷりまぶして切り、箱詰めする。「何百年間も同じ製法が、寸分変わらず受け継がれているというのはすごいことですね。でも、そんな素晴らしい職人の技も、誰かが受け継がなくては途絶えてしまう。人ありきですね」と長尾さん。伝統を受け継ぐことの大切さと、難しさを痛感するひとときだ。丁寧に淹れていただいたお茶とともにいただけば、なんとも心和む。こうしたいいお菓子がいつまでも愛され続けることを願ってやまない。

園田屋

熊本県熊本市南坪井町6-1

tel 096-352-0030
fax 096-352-0295


熊本国際民藝館を訪ねて

熊本県立美術館を見学したのち、昼は、名物の太平燕をいただく。いわば、長崎ちゃんぽんの春雨版だ。野菜のだしに魚介の旨みが加わり、嫌いな人はまずいないという、いやみのない味。これだけ名物で全国に展開されていない、稀有なローカルフードだが、これも、熊本県人の“もっこす”な性格ゆえか。
「おいしかったなあという記憶を裏切らない、良心的な味ですね」と長尾さんもご満悦。そして、熊本国際民藝館を訪ねる。島根から移築した150年前の古民家が風情のある民藝館。1階は企画展、2階には、九州全土の民芸の器がゆったりと並べられている。時が止まったような空間で、ゆったりと和みながらの時間を過ごすのもいい。

九州の陶器、ガラス、織物など、カテゴリー別に古い民芸品がディスプレイされている。
熊本国際民藝館

熊本県熊本市龍田1-5-2

tel 096-338-7504


工藝きくちで民藝の真髄に触れる

モノとヒトへの敬愛があふれた書斎

旅の最後に訪れたのは、民藝好きの間ではつとに名高い、「工藝きくち」だ。天井からは無数のかごが吊るされ、床には壺や瓶、棚にはぎっしりと器が並び、合間を布やガラス、刃物など、珠玉の品々が埋める。宝石箱をひっくり返したような店内を抜け、まずは、奥の、ご主人の書斎に通される。塩漬けの丸太で作ったという長テーブルにつくと、窓の外の緑が涼しい風を運んでくる。書棚には李朝から、趣味の山歩きのきのこ辞典まで、書斎の主の人とナリを表す本が並ぶ。「まれに見る気持ちのいい空間ですね」と、惚れ惚れと長尾さんも言う。
ご主人の菊池典男さんは、30年前に熊本市内に店を構え、月の1/3は韓国かアジアで、1/3は国内の窯元や市、骨董商を回り、1/3は山へ入る。そんな暮らしを続けてきたという。「日本はもとより、アジア各国をくまなく回っていますが、最近はドキッとするものがなくなりましたねえ」と嘆く。それでも、窯元や工房をひとつひとつ足で回り、作家・生産者と対峙してきたご主人の知識は泉のごとくだ。器に対する見解も説得力があり、引き込まれる。奥に備えられたキッチンでは、奥様が楚々とお茶をいれてくださり、山で採ったきのこの佃煮をお茶うけにいただく、幸せなひととき。

上:雰囲気のある書斎。書棚を背にした、ご主人の定位置。
中:中国の大原市の市場で見つけた漆器で出されたカステラは優しいおいしさ。
下:棚はもちろん、壁も天井も隙間なくモノが陳列されている。ゆっくりお気に入りを探したい。

コレクションあれこれ

ひとごこちついたところで、商品であるコレクションを案内してもらう。その守備範囲は実に広い。島根県湯町窯のスリップウェア、同じく出西窯の陰山善市の作、愛媛の砥部焼、なかでも、李朝に傾倒した池本忠義の作、地元九州では小鹿田焼など、民藝好き垂涎の品が揃う。長尾さんも気になる器を1枚1枚手にとって愛でる。と思えば、「明日も3トントラックでかごが到着するんですよ」と笑うご主人。アジア中のかごが集まってくるようだ。かご好きの長尾さんもつられてテンションが上がる。悩んだ末に、酒を入れて運んだという中国のかごを購入。唐突に「専門はなんだかわかります?」と聞くご主人。「染色でもないとすると…」と悩む長尾さんに「刃物ですよ」と茶目っ気たっぷりに答える。中国や韓国の古いものから、沖縄のものまで、鋭利でしなやかな刃物が美しい。

上:熱心にご主人の説明を聞く長尾さん。
中左:中国のカットワイングラス、メキシコのカットワイングラス、倉敷の小谷栄次作のグラス。
中右:小鹿田焼きなど、九州の焼き物が中心に並ぶ一角。
下左:天井からいくつものかごが吊るされている。中国や東南アジアのものも多い。
下右:台湾の手打ち鋏。

料理と器の幸せな出会い

さて、帰り際、ご主人にぜひにとに誘われて、1965年の創業時から集め続けた民芸の器で料理を出す居酒屋「肥後路」にお邪魔した。旬の素材に丁寧に手をかけて仕上げる熊本郷土の味が、使いこまれた器に盛って供される。料理と器の幸せな関係を見るようで、どれもが心に響く。菊池さんと肥後路の主人の器談義を聞きながらの食事は、実に楽しいものとなった。「今度はゆっくりと夜に、お酒も少しいただきながらお話を伺いに来ます」と、約束して店をあとにした。

民芸酒房 肥後路
熊本市下通り1-9-1松藤会館 2F
tel 096-354-7878

工藝きくち

熊本県熊本市大江4-11-17

tel 096-371-2220


ページトップへ戻る

Follow us!