対談 彫刻家・小谷元彦×建築家・荒木信雄

- Contemporary Art Museum Kumamoto, Kumamoto

空間への圧倒的なこだわりと精密さを感じさせる作品を生み出す、彫刻家・小谷元彦と建築家・荒木信雄。
今回が初対面だというふたりが、熊本市現代美術館で対談しました。
それぞれキャリアを積み重ねる中で感じた、クリエイションの次なるステージとは。

—「小谷元彦展 幽体の知覚」は、2010年11月に森美術館から始まり約1年をかけて巡回し、最後となる熊本市現代美術館で開催されることになりました。荒木さんは、今回の展覧会にどういった印象を持ちましたか?

荒木信雄(以下、荒木)「小谷さんの作品はもちろんメディアなどでよく目にしていたのですが、実際に作品を拝見するのは今回が初めてです。先程、学芸員の方に解説をしていただいたのですが、解説が必要ないくらい、作品自体を体で理解することができました。自分の持っている知覚と対話できる作品が多かったので、とても面白かったです。滝の映像を用いた《Inferno》は、中に入ると体が不思議な感覚になり、1分間くらいして慣れてくる。一見アトラクション的なインスタレーションですが、仕組みを考える暇なく、作品の世界に引き込まれます。自分の体に起こる変化と作品がリンクし、純粋に自分自身の感覚と向き合うことができました。気になったのが、美術館によって空間のサイズが変わってくると思うのですが、《Terminal Documents》は巡回の途中で追加されたそうですが、どの美術館のサイズに合わせて作ったのですか?」

小谷「今回展示している《Terminal Documents》は巡回用で、本当はもう二回りくらい大きくしたかったんです。でも物理的な制限があり、なおかつ安全性なども兼ね備えた作品としてあのサイズになりました」

荒木「表面の写り込みや天井への反射など、空間によって随分印象や感じ方が変わりますよね」

小谷「そうですね。特に天吊りはほとんどの美術館が難しいので、かなり苦戦しました。基本的に、巡回展ではイレギュラーなことができません。プロジェクターひとつとっても、美術館ごとにスペックが揃っている訳ではないので、本展覧会をひとつのパッケージ化されたものとして考え、そこの場所でやれる限界に挑戦しました」

荒木「確かに、そういったスペックについてはハードを作る側の建築家として考えなければいけない所です。“卵が先かニワトリが先か”ではないですが、運営する美術館側でも、ずっと議論されていますよね」

小谷「映像作品であれば、可変的に場所に合わせて構成できるのですが、作品ありきになると、どこを設置の基準にするのか、また電力や床の耐重量など細かな制限がでてきます。その制限の中で作品は展示されているわけで、ある場所では達成できたことが、別の場所でできないというジレンマは常にあります」

アートと建築の関係性

荒木「例えば丹下健三とイサムノグチや、村野藤吾と辻晉堂など、建築家がアーティストにオーダーして建築にまつわる表現の一部を担ってもらうことはよくあります。小谷さん自身はコミッション・ワークのような作品は制作しているのですか? その場合、純粋な作品制作とどのように分けて考えているのでしょうか」

小谷「コミッション・ワークは、いくつか手がけています。企業や個人など様々ですが、特に分けて考えてはいないですね。僕は元来、美術はその場所に行って体感すべきモノだと考えています。最近では仏像展などがよくありますが、基本的に仏像は巡回するモノではないですよね。もちろん、お経を説いて各地を周る必要性も理解はできるのですが、お寺に行ってその空間で対面することが大切なはず。どこに居てもあらゆる情報が手に入る時代だからこそ、そこの場所でしか体感できない作品というのは今後、必然的に増えていくと思います。結局は自分の足や身体を使うことで得られる力を求められるようになるので、建築もより注目を集めていくでしょう。昔に遡るといくつか事例はあるのですが、ここ数十年くらいは、アートと建築は分断されていた気がします。今、ようやく融合し始めているような気配は感じますね」

荒木「ビルのアトリウムなどで、ギャラリーからいくつか作品を選定してお借りして飾るというようなスタイルは、僕はあまり好きではないんです。もっと空間とリンクしながら、建築と一緒に年を重ねていくような仕事をしたいと常々考えています。なので、アーティストの方々がコミッション・ワークのような制作についてどのように考えているのか、とても興味があります」

小谷「お寺で言えば、建物の構造を作る人と仏像を作る人は別ですよね。両方が合わさり、はじめて一体となった装置となり“聖地”という考えができる。僕はそういった意味を持つような場所を作って行きたいと思っています」

荒木「企画する側も意識的になることが大切ですよね。公共の敷地がすでにあって建築家にその予算の中で依頼される、という図式がもうそろそろ変わっていくと思います。本当にその場所に建てるべきなのかという所から考え直さないといけない。美術館で言えば、作品をどうやって見せて行くのか、作家やお客さんにとって一番いい形が何か、いつも美術館に来るとモヤモヤと考えさせられます」

熊本における現代美術のあり方

— 熊本市現代美術館は地方都市にある美術館ですが、市内の中心に位置し、商業ビルの一角にあります。東京で言えば森美術館も同じような形態に思えますが、小谷さんは熊本という場所で展示することをどのように感じていますか?

小谷「熊本自体は何度も来ています。幼い頃に阿蘇山に行ったことがあって、怖いけれどかっこいいなと思っていました。大人になってからは、生人形に興味を持ち、発祥の地である浄国寺にも行きました。九州自体がとても魅力的な場所ですよね。文化や宗教の入り方が、僕の生まれた京都とは全く違っています。でも、東京に比べるとまだまだ現代美術は浸透していないですよね。実際に足を運んでもらえれば、すんなりと受け入れられることもあるので、もっと沢山の人たちに観てもらえるように、僕も含めアーティスト自身が活動をしていくべきだと思っています。地盤を作っていくことで、次の世代のアーティストも出てくるだろうし、なおかつ観る側のお客さんの知識や経験値があがれば、いい作品がどんどん世にでてくると思います」

荒木「僕は高校生まで熊本にいたのですが、当時の熊本はファッションやカルチャーが盛り上がっていた時期でした。建築で言うと、高校生の時に県の事業として磯崎新さんがコミッショナーを務めていた『くまもとアートポリス』という建築のイベントが始まり、当時は建築家になろうと思っていたわけではないのですが、少なからず影響を受けました。熊本市現代美術館は市内の商業ビルに入っているので、日常に溶け込んでいますよね。このゆるい感じの空間で、タレルやアブラモビッチを観られるというのは面白いと思います。とはいえ、企画展では小谷さんのようなバキバキの現代アートが展開されている(笑)。その絶妙なバランスを子どもたちが体験して、今はわからなくても、何十年か後にふと思い出して何か沸き上がるモノがあるといいですよね。今回の小谷さんの展覧会は特に、大人から子どもまで体で理解出来るような作品が多いと感じました」

"芸" を進化させること

小谷「現代美術のある種のゲーム性は面白いとは思いますが、残念ながら日本人はそのゲームの中になかなか入ることはできないんですよね。その時に、やはり言葉ではない部分でいかに伝えることができるかが大事だと思うんです。言語を介したコンテキストに入り込みすぎるのは、自分にとって危険な気もしています。作品を作りはじめた最初の頃は、ストレートに表現することを考えていました。ストレートで強いパンチを打ちたいと。きちんと相手に伝わるのか不安だから、ストレートな表現に固執していたのかもしれません。やってみると意外と、ストレートなモノはストレートに伝わるのだと解ったんですよね。じゃあ次は、少しロジカルにわからなくしても伝わるのかなと思っています。でも、身体とダイレクトに交信できる部分は残す必要がある。コンテキストを理解するだけでは僕は足りなくて、他者とダイレクトに接続するためにその身体性は必要だと考えています」

荒木「建築でいえば、工事が終了しクライアントに引き渡した時点で一区切りつくのですが、そこで終わりではありません。だから仕事の終わりはなく、自分が死んだ後も続いていくし、実際に僕が想像しなかった使い方をするクライアントさんもいる。アート作品も同じで、作家が伝えようとすることをストレートに受け取る場合もあれば、観る側がより想像力を働かせて、全く違うように読み解くこともあると思います。アートと建築はイコールではないですが、似たような関係性がある気がします」

小谷「そうですね。以前はここで作品を終わらせないといけないとか、完成させようと思っていたのですが、最近はそういった所にあまりとらわれなくなりました。改変したければしていいのだなと。実は《Terminal Documents》も、今また作り直しているんですよ。再度撮影をして、音と映像のシンクロ度を変えています。一度やってみた結果があるので、わかってくることがある。そして作品は1個は単体で成立しているわけではなく、いろんな作品がゆるやかにハブとなり繋がっているのだなと、巡回展をやってみて特に強く思うようになりました」

荒木「僕は以前からお笑いの舞台をよく見に行くのですが、舞台に出てくる芸人さんたちは自分の持ちネタを、その場の空気やお客さんのレスポンスなどすべて含めて、グイッとその数分間に持っていくんですよね。その柔軟さとアドリブ感や完成度は、まさに職人技です。例えがあまりよくないかもしれませんが、アーティストの作品もいろんな場所に巡回しますよね。自分のネタがあって、その場に合わせて空間と作品を合わせていく。小谷さんの改変していく話もその感覚と近いのかなと。自分の中で楽しみながら消化して、さらに観客と一緒に高め合っている気がします」

小谷「頑なな部分が徐々に無くなってきて、いい意味でいい加減になってきましたね。今までだったらギンギンにフォーカスを当てないと気が済まなかったのですが、そこまで当てなくてもいい。もっとゆるくやればいいかなと」

荒木「気持ちはわかりますが、作品にはそのゆるさは全く出てないですよ(笑)。僕も30代の頃は、ゆずれない部分があるとクライアントと納得がいくまで徹底的に戦いました。小谷さんのその変化は妥協とかではなく、次のステージに上がったということですね」

小谷「森美術館での展覧会が終わって、今までやってきたことを振り返るとちょっとフォーカス当て過ぎていたなと感じたんです。巡回をやればやるほど、先程の芸人さんの話ではないですが、その場その場で合わせていかなければいけないことが沢山でてくるんですよね。そこでギンギンにフォーカスを当てようとするとスペックなどの問題でできなくなってしまう。作品にとってその状況はダメだと気がついたんです。もちろん、川村記念美術館でマーク・ロスコを観るような、コンディションが完璧な場所で展示出来れば最高ですが。巡回する中で、もう少しゆるくなっていいのかなと思いました。とはいえ、僕の中にはゆずれない部分もしっかりあるんですけどね」


「小谷元彦展 幽体の知覚」

会場:熊本市現代美術館 企画展示室Ⅰ・Ⅱ
熊本県熊本市上通町2番3号
tel 096-278-7500

会期:2011年9月17日(土)~2011年11月27日(日)

開館時間:10:00~20:00 (入館は19:30まで)

休館日:火曜日(祝日は開館し翌日休館)
    年末年始(12/29〜1/3)

入館料:一般1000円、高・大学生500円、
小・中学生300円、熊本市・福岡市・鹿児島市内
小・中学生は無料

www.camk.or.jp


対談 彫刻家・小谷元彦×建築家・荒木信雄

「小谷元彦展 幽体の知覚」展示作品1

「小谷元彦展 幽体の知覚」展示作品2

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