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料理家・栗原 友が訪ねる、九州こだわりの美食材 explore & cook vol.6 福岡県[探訪編] >

糸島の豊かさを伝える「伊都安蔵里」と松尾靖子さんの自然農

糸島の豊かさを伝える「伊都安蔵里」と松尾靖子さんの自然農

- Itoshima-city, Fukuoka

魚の次は野菜。市内から車で小1時間の糸島は、その温暖な気候を生かして、たくさんの農家が野菜作りに励んでいる。大都市でありながら、近郊で抜群のクオリティの魚も野菜もまかなえることは、福岡の大きな魅力だ。
インターネットで糸島を調べているなかで、古い蔵を改装して糸島の心ある農家の野菜や昔作りの調味料や食材を販売する、食のセレクトショップ「伊都安蔵里」を見つけた。近隣の農家の主婦が腕によりをかけて作る安蔵里乃膳もとても美味しそう。さっそく取材を申し込むと、快くOKの返事。お昼をいただき、その後、自然農に取り組む松尾靖子さんの畑を案内してもらえることになった。

土間には近隣の農家からの野菜が、所狭しと置かれている。
お洒落なカフェスペース。2階はラウンジ。
お座敷で安蔵里乃膳をいただく。
野菜の小鉢から煮物、生姜焼きまで盛りだくさんな安蔵里乃膳。
糸島の名物、そうめんちり。小鍋でくつくつ煮立てながらいただく。
デザートは抹茶の豆乳パンナコッタ。
庭を眺めながら、縁側で食後のお茶を楽しむ。

伊都安蔵里で
心和むお昼ごはん

のどかな田舎道に、ぽつんと佇む伊都安蔵里。果樹の植わった庭を抜けて、がらりと引き戸を開けると、土間には九州各地の露地栽培で無農薬を中心とした自然農の野菜など、こだわりの野菜や食材がずらりと並んでいる。
通された座敷の縁側からは、手入れの行き届いた庭が見え、気持ちがいい。運ばれてきたお膳には、大根なますやブロッコリーのピーナッツ和えなど野菜の小鉢や、豚の生姜焼きなどが盛りだくさんに並ぶ。主菜は、小鍋で供される「そうめんちり」。甘めのだしの中で素麺と野菜をぐつぐつと煮るという、糸島の郷土料理だ。
「初めてなのに、なんだか懐かしい美味しさですね」とトモさん。デザートのパンナコッタまで完食。体にやさしい満腹だ。

のどかな田園風景が広がる。
あぜ道をのぼって、小高い山の上にある松尾さんの畑へ。
まるで花畑のように、草花が咲き誇る自然農の畑。
花と共存する野菜たち。花をかき分けて、野菜を採取する松尾さん。
ずしりと大きく育ったキャベツを切り取る松尾さん。

松尾靖子さんの畑へ

さて、いよいよ、自然農の畑へ。松尾靖子さんは、伊都安蔵里が契約している、100人ほどの生産者の一人だ。奈良県で自然農の祖とされる川口由一先生について、その理念を学び、21年の歳月が経つ。九州で初めて自然農に取り組んだ生産者でもある。
松尾さんはこのエリアで、米や果樹を含めて、年間150種の作物を作っている。基本は自給自足だというのだから素晴らしい。「畑は私のキャンバス。パッチワークみたいにいろいろな絵を描きながら種をまくんです」と愛おしそうに野菜に触れている。
「自然農という言葉は知っていても、具体的にはよくわからなくて……」と、自分でも畑を耕すトモさんは真剣だ。
松尾さんについて、小高い丘をのぼっていくと、目の前には小さな花が咲き乱れる畑が広がる。「これにんじん、こっちはブロッコリー、そしてキャベツ……」と説明されても、一瞬キョトン。花と野菜が共存しているというか、花の中に野菜が埋もれている。驚いている私達に、松尾さんは、自然農がどのような理論に基づいているのか、畑を回りながら丁寧に説明してくれた。

松尾さんの作業着に、てんとう虫がとまっている。虫を敵としないという哲学の証。
しっかりと葉が巻いている白菜。
小ぶりでぎゅっと味の詰まったブロッコリー。脇芽まで甘い。
あっという間に5~6種の野菜を収穫。種類の豊富さも松尾さんの自然農の魅力の一つ。

3つの「ない」が基本の自然農

「耕さない、草や虫を敵としない、農薬肥料を使わない、この3つの“ない”が、自然農の基本です」と松尾さん。農業というと、これまでは、いかに、雑草を除去し、害虫を除外し、野菜を守り育てるかという管理型の考え方が主流だったが、自然農は、まったくその逆。草や虫と共存することで、野菜の命を育てていこうというものだ。「いろんな草が生えるということは、それだけ土地が豊な証です。生きた葉があれば夜露がおります。だからこんなに寒くても、苗が守られるんです。虫は基本的に野菜よりも草が好き。だから、草は必要なんですよ」という松尾さんの言葉に、トモさんも少しわかってきたよう。
そして何より、土は絶対に人間が作ることのできないものだ。せっかく微生物や虫、小動物の働きで土が豊かになっているのに、耕すことは、その小さな命の世界を壊してしまうことになるのだという。これが、「耕さない」、「虫と草を敵としない」という考え方の根源だ。
また、肥料は一切与えず、健康な野菜が育つよう、自然の恵みであるアブラカスを上から少しかける程度だ。「動物性の堆肥を与えないから、自然農でできた野菜は小さいけれど爽やかで、ほのかな甘みがあるんです。ブロッコリーなら、脇芽までおいしいですよ」と松尾さんは胸を張る。

人間が人間らしくいられる、自然農の理論を平易に説明してくれる松尾さん。
山道の途中の雑木林で、原木椎茸を栽培。
金美にんじん。がぶりとかじれば、爽やかな甘さが広がる。
松尾さんの考え方に心酔し、松尾さんのもとで自然農を学ぶメンバー。

命のつながりを感じながら

「自然農を20年間やっていると、命と命がつながっていくのがよくわかります。"種や菌を仲間に入れてね" という考え方なんです。そうすると命の連鎖が生まれ、自分も地球の中の一つの命なのだということが実感できます」と松尾さん。
草や虫を敵としないということが、どれだけ心を癒してくれることか、とも。おとぎ話のようだけれども、実際に、にんじんと草花が仲良く共存しているさまを見、その場で土から抜いたにんじんをかじって、爽やかな甘みを味わうと、にわかに松尾さんの言葉が説得力を持つ。「土を触っていると、本来の自分が取り戻せます。だから、家庭菜園でも、小さな畑でもぜひ手がけてみてください」と松尾さんは言う。千葉に畑を借りて野菜を育てているトモさん。次のシーズンにはぜひ試してみたいと張り切っている。
とはいうものの、一朝一夕に自然農ができるわけでは、もちろんない。松尾さんとて、師の元で学んでから21年、試行錯誤を経て今の手法を確立したのだ。
現在は、このエリアを、53の家族が分割して、野菜を育てている。中には、松尾さんの自然農に惚れ込み、朝日新聞社をリタイアしたのち、この地で自然農に励んでいる方も。ちょうどお目にかかったので話を聞いたら、「隣の松尾さんの畑はこんなに野菜ができているのに、私の畑はさっぱり。同じように育てているはずなんですけどね」と笑う。
「大切なのは、土に触れ、命のつながりを感じることですから」と松尾さんは励ます。

年間の畑の様子を記録した写真を見せて、わかりやすく説明。
間伐作業で出た枝は薪にする。
松尾さんの穏やかなのに説得力のある話ぶりに聞き惚れるトモさん。
白菜の外側の葉を丁寧にさばく、松尾さん。手作業が欠かせない。

手仕事、感性、知恵が一つに

今の時代は、手仕事の価値をもう一度見直すべきだと、松尾さんは声を大にして言う。大きな機械を使わず、手作業を重んじ、手作りを大切にする。
「例えば、種もなるべく自家採取するようにしています。知ってますか? 大根の種って生でかじると大根の味がするんですよ。すごいでしょう」と松尾さん。自家採種を繰り返すと、土になじんでここの植物になる。10年たてば固定種だ。こうして、手仕事、感性、知恵がひとつになったとき、そこには、一つ上のレベルのものができるのだと教えてくれた。「料理を生業とする人間として、すごく、心に沁みます。漠然と感じていたことを、はっきりと言葉にしてくださって、すごく嬉しいです。ありがとうございました」とトモさん。松尾さんとの出会いは、かけがえのない経験になった。

 

渾身のレシピに乞ご期待!

無農薬レモン

 

親芋

 

春菊

 
↓   ↓   ↓  
     

レモンクリームパスタ

 

親芋の豆乳ポタージュ

 

春菊のクスクスサラダ

 

From Producer
松尾 靖子さん

「自然農で命を紡ぐことの素晴らしさを、一人でも多くの人に伝えたいと、自分自身で作物を作るだけでなく、学びの場を設けて、一緒に作業をしています。学びの場は少しずつ増えて、現在5ヵ所になり、50数名の方が、年間を通して、自然農による米作と野菜作りに、週末や祭日を利用して取り組んでいます。また、週1回、旬の野菜を何種かセットにして宅配するシステムもありますから、興味のある方は問い合わせてみてください」

Tomo's Comment
「とにかく、目からうろこの驚きの連続でした。千葉に畑を借りて野菜を育てるにあたって、指導を受けてきたその方法とは、180度逆の考え方でしたから。だから、自然農で育てた野菜はどんな味なんだろうと、すっごく興味深かったんです。で、食べてみると、予想を超える爽やかな甘さと旨みが口に広がりました。感動です。もちろんすぐにできることではないけれど、来シーズンはぜひ、トライしたい。機会があれば、自然農塾にも参加してみたいです!」

伊都安蔵里

福岡県糸島市川付882

tel 092-322-2222

itoaguri.jp


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