中村平三窯で職人技の真髄に触れる

Higashisonogi-gun, Nagasaki

最後の職人の仕事に触れる

無冠の帝王、神の手、最後の職人…、生地師の家に生まれ、16歳で焼き物の道を志して60余年、波佐見焼一筋の中村平三氏に与えられた、数々の称号だ。 開け放たれた明るい土間を作業場に、中村さんの定位置は、でんと置かれたろくろの前。堀江さんの声がけで、突然の取材にも快く応じてくれた中村さんだが、話の合間にも、時間をみつけては作業を続ける。最短時間で最良の器を作るという、職人魂が感じられる。
磁器が波佐見の伝統の焼き物とはいっても、現在は、型を使って製造されるるものがほとんどだそう。ところが、中村さんが手がける磁器は、すべて、轆轤仕上げだ。轆轤が回り、牛ベラという独特のコテを添えると、直径5cmのぐい呑みから大皿まで、思い通りの形の器が現れる。そのためには、自在に操れるだけの上質の土を作ることがまず大前提。陶石の粉に水を含ませて粘土状にした土を練って、中に含まれている空気を抜いていく。文字にすると容易なようだが、練り3年と言われるほどに技術を必要とする工程で、熟練の中村さんが練った土は、扱いやすさも天下一品だ。
器の形状が整ったら、天日に干し、サンドペーパーで削るなど、細部を調えたのち、約900℃で9時間素焼きし、絵付けをする場合は呉須(藍色の染料)による下絵付けをする。その後、釉薬をかけて1300℃で18時間の本焼き、そして上絵付けと進む。 磁器の生地は、乾燥して1割、焼いて1割、計2割縮むのだという。その2割を見越して、寸分違わぬ器を作るのは神技。それが、中村さんが、神の手と称される所以だ。

上:神の手といわれる中村平三さんの精巧な轆轤仕事。
中上:金ベラという道具で、生生地を少しずつ削って仕上げていく。
中下:焼成前(奥の器)と焼成後の器の大きさの違い。約2割縮むと言われている。
下:惚れ惚れするほど美しいフォルム。乾燥後、素焼き、そして本焼きへと進む。
 

完成度の高さに圧倒される白磁と染付

工房に隣接したショップを見回すと、清々しい透明感のある白磁と、精緻な柄が美しい染付の器が無造作に置かれている。たおやかながら凛とした、気高いフォルムの数々に、圧倒される。 「本物の持つ力ってすごいですね」と長尾智子さんも感心しきりだ。
「波佐見から一度も出とらんとです」と中村さん。しかし、その言葉の裏には、有田の共同体として、有田の名工が手がける生地も多く作ってきたという職人としての矜持も込められている。通常、波佐見では、同じ陶房内で絵付けはしない。完成した生地をそのまま有田に送られることも多い。ところが、中村さんの窯では、同志であり、妻である佳智子さんが絵付けをし、完成品として出荷する。山水画や花唐草、蛸唐草など、古典を基本とした絵を、1個10分程度ですらすらと描き上げる。見事というほかない。整然と整理された作業場には、李朝や明代などの古陶がいくつか置かれている。構図や図柄に悩んだときには、必ず古いものに立ち返るのだそうだ。 「遠い先人たちの作品は常に真実を教えてくれます」と佳智子さんは言う。

上左:白磁と染付の作品をランダムに並べて。
上右:奥様の佳智子さんが絵付けをしている手元を拝見。
下左:呉須という顔料を筆で手早く描いていく。写真のそばちょこなら1個10分ほどで描き上げる。
下右:古典的な蛸唐草文様も、凛として気品がある。
 

伝統を受け継ぐ気概

同志として、硬い絆で結ばれているお二人。断られるかもしれないという心配は杞憂に終わり、平三さんと佳智子さん、仲良く写真に収まってくれた。時折愛猫を抱いての撮影は、なんとも微笑ましく、和やかな空気が流れるものとなった。
「あ、いいな、 ほしい! と思った品は非売品ばかり」と、工房を丹念にぐるりと巡った長尾さんが嘆く。
「あんまり気に入ると、売るのが惜しくなってしまって」と笑う中村さん。職人でありながら、職人だからこそ、生み出した品への愛が強いのかもしれない。
また、こんな話もしてくれた。「土間をコンクリートに替えたときには大変でした。乾燥するのか、生地にひびが入ってしまう。慌てて土間に戻しました」と中村さん。先人たちの育んできたものの大きさに改めて驚かされる。
しかしながら、江戸時代のくらわんか椀に象徴されるように、いいものを大量に生産するということに波佐見の真価があるところに悲劇があった。戦後、瀬戸や美濃を相手に、機械化を推し進めたために、中村平三のような職人は、ほとんどいなくなってしまったのだという。後継者たらんとする人間が少ないことは、厳しい現実だが、中村さんは数十年来、陶芸教室でその技を伝授している。
「たとえ、波佐見の外であっても途絶えずに、技術が受け継がれていけば」とは、中村さんの切なる思いだ。

上:作陶と絵付け、ぴたりと息の合った、なんとも素敵なご夫婦。
右上:佳智子さんの仕事場におかれた酒器。気品のあるフォルムと、繊細な図柄がぴたりと呼応した、見事な作品。
右下:波佐見焼の真髄ともいえる、美しいそばちょこの数々。
 
端正なフォルムの白磁の浅鉢、筒茶碗、たわみが美しい平鉢。

盛りつけ後を見る

 
中村平三窯

長崎県東彼杵郡波佐見町皿山郷519-2

tel 0956-85-4032


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