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長尾智子が訪ねる 九州の器 温故知新 第五回 唐津焼[佐賀] >

唐津の土と自然が磨き上げた「土平窯」

唐津の土と自然が磨き上げた「土平窯」

- Karatsu-city, Saga

次に、唐津の町から車で30分ほどの、ひなびた山合いで作陶に励む「土平窯」を訪れた。
藤ノ木土平さんといえば、銀座「黒田陶苑」での個展が高く評価されるなど、器好きを魅了してやまない個性派の唐津焼作家だ。新潟に生まれ、油絵を志して上京するも、いつしか陶芸に心惹かれ、方向を転換。美濃で陶芸を学んだのち、唐津の土に魅せられ、1980年に現在の地に居を定めた。

茶室で
一期一会のもてなしを受ける

初めて訪れた私達を、土平さんはまず茶室へと案内してくれた。心をこめて土平さんが点てる一服のお茶を、心して喫する。時折、小鳥がさえずるだけの静寂のなかで至福の時間が流れる。
ひと心地ついてゆっくりと茶室を見渡せば、天壁にステンドグラスが輝いている。聞けば、「李朝の明画を飾る予定だったのですが、それでは決まり過ぎてしまうので、ラリックのガラスを入れました」と。また、障子の一部には、クロス(十字架)型に障子紙が貼りこまれ、夕ざれの茶事で西日が差し込むと、畳に十字架が映る仕掛けになっている。「キリシタンに改宗した古田織部も、こうした、一見ではわからない信仰をひそませたのではないだろうか。私自身は信者ではないけれど、そんなことを考えて遊んでみました」と、笑う。

一段目:味噌松風を盛りつけた輪花の菓子器。穴窯による灰釉。
二段目:手入れの行き届いた庭の中に佇む茶室「天地庵」。
三段目左:炉にかかった窯から気持ちのいい湯気が上がる。
三段目右:自ら作陶した茶道具で茶を点て、もてなす藤ノ木土平さん。
四段目:唐津井戸茶盌。
五段目左:釉薬の流れを楽しむ筒型の茶盌。
五段目右:天壁にはめ込んだ、ラリックのステンドグラス。

作品にふれる

茶碗の土のぬくもりを手に残しながら、次に工房へと向かった。隣接するアトリエには、典型的な唐津焼から、造形的な意匠のものまで、さまざまな顔を持つ土平作品が並んでいる。どれも、土は唐津のものを使用し、技法も、古典をきっちりと押さえながらの作陶だ。
それが証に、ギャラリーの棚には、絵唐津、朝鮮唐津、斑唐津、黒唐津など、さまざまな手法の唐津焼の器が揃う。作風の幅広さもまた、唐津の伝統だ。土の温かみと力強さを感じさせる確かな造形力や、枯淡ともいえる味わいのある絵の巧さが、唐津の本質、つまり古唐津に通じ、それこそが「土平窯」の魅力の根源となっているのだろう。
「動物の文様が多いのですね」と長尾さんが聞けば、
「目の前に見えている、なんていうことはない草花や動物を描くのが唐津ですから」と桃山の昔の陶工へ思いを馳せる。

上左:工房で、丁寧に器の技法や成り立ちを説明する土平さん。  上右:庭の四季の移り変わりを見ながら、作陶に励む、ろくろ場。
下左:成形した壺にノミで彫り模様を入れていく。  下右:刻の平皿に夏みかんを盛って。

土平世界を創りあげているもの

東京で絵の勉強をしながら美術館をいくつも回るうちに、絵よりむしろ、工藝の作品に惹かれている自分に気づき、陶芸の世界を目指したという土平さん。
数ある焼物のなかでも、李朝と古唐津に魅せられ、唐津で3年、美濃の加藤芳右衛門のもとで2年間、みっちりと修業を積んだ。「師匠は大変に厳しく、2ヶ月間は庭の掃除のみ、落ち葉を集める作業だけをさせられました。けれど、そのときに培われた価値観が、自分にこうした自然環境を求めさせたのだと思います」。春になれば山桜が咲き乱れ、日本蜜蜂と共生する、そんな桃源郷のような世界で 四季折々の美しい自然を写しながらの作陶が、土平世界を形成しているのだ。そしてもうひとつ、大きな影響を与えているのが、茶の湯の心。「古田織部が作る唐津を目指したい」とは、土平さんの言葉。人と同じを嫌い、自由を重んじ、独自の美の概念を作り上げた古田織部は、永遠の手本であるのかもしれない。

上:春は桜、夏は緑と、四季折々の自然が美しい、日本蜜蜂が集まる豊かな庭園。
中:窯出ししたあと、満足のいかない器は陶片に。下左:最も初期の焼物の技法である、穴窯で焼く無釉の焼き締めの花器。
下右:藁灰を作っている息子の隆太郎さん。
上左:絵唐津の平皿と浅鉢をダブルソーサーにしてセッティングすれば、洋風の料理にもぴったり。箸置きは庭の落ち葉。
上右:縁に刻、大胆に釉を掛け流して焼いた器に、ドライフルーツ入りのパンを盛って。手作りのジャムがごちそう。
下左:長尾さんも盛りつけのお手伝い。からりと揚がったトンカツ。
下右:ミネストローネをスープチュウリン代わりに大鉢に盛るのも素敵。

料理が映えてこその器

「昨晩、唐津の『欅』というイタリアンレストランで食事をしたのですが、あちらの器は全部、土平窯さんのものなのですね。海老の赤が暗緑色の織部によく映えて、すごくきれいでした」と長尾さん。
「もう随分長いこと、私の器を使ってくれています。丁寧に扱ってくれるので、1枚も欠けていない。ありがたいことです」。あくまで用の美を貫き、料理が映えてこそ器としての価値がある、という考え方もまた、唐津焼の真髄にほかならない。
実はまた、奥様が料理の名手だ。工房の見学のあと、お昼をご馳走になった。広々としたダイニングキッチンからは、手入れの行き届いた庭がよく見える。無垢の長テーブルの上には、惜しげもなく土平作の大皿が置かれ、ドライフルーツやチーズから、ミネストローネ、カツレツ、キャベツと、きどらない中にも、美味しいものを知り尽くした人ならではのセンスのよい取り合わせの料理が並び、幸せな昼食が始まる。 庭の山桜が満開になる頃に、いつか訪ねてみたいと約束を交わし、桃源郷をあとにした。

千鳥を描いた絵唐津、うさぎの絵唐津、黒釉をかけた黒唐津。

盛りつけ後を見る

あまりの愛らしさに、長尾さんが購入したうさぎの絵唐津の小皿。

盛りつけ後を見る

土平窯

佐賀県唐津市鎮西町野元1315-3
tel 0955-82-2970


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