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長尾智子が訪ねる 九州の器 温故知新 第五回 唐津焼[佐賀] >

唐津の可能性を広げる「赤水窯」熊本 象さん

唐津の可能性を広げる「赤水窯」熊本 象さん

- Karatsu-city, Saga

次代の唐津焼への期待がかかる若手作家として紹介されたのが、「赤水窯」の熊本 象さんだ。新しい唐津焼も知りたいと、唐津を代表する老舗美術陶磁店「一番館」に相談したところ、熊本象さんの名前が挙がった。さっそく取材を申し込み、窯を訪ねることになった当日の朝、偶然にも、川島豆腐店に隣接する「日本料理 かわ島」の朝食の席で、ひと足早く象さんの器に出会うことができた。川島豆腐店9代目の義明さんは、中里隆さんの盟友。器の目利きとしても知られ、いち早く熊本さんの才能を見出し、すでにいくつかの器を店で使用している。なにしろ義政さんの眼鏡にかなえば、鬼に金棒。隆太窯の作品をはじめ、店で使用している器や調度品の趣味のいいことは言うに及ばず、その確かな審美眼を頼って、器のコーディネイトを頼む、東京の割烹やレストランも少なくないのだ。

赤水窯の成り立ち

期待に胸をふくらませて訪れた「赤水窯」は、どことなく山小屋を彷彿とさせる。父親である熊本千治さんが、唐津市、鏡山のふもとに「加らつ屋クラフト工房」をオープンしたのが1976年のこと。喫茶「加らつ屋」内に作品を展示し、工房の器で自家焙煎のコーヒーと軽食を供するスタイルが、地元の人々に愛された。そして30年。その間、千治さんはさまざまなクラフト展に出品。なかでも、2009年には日展の特選に入選するという輝かしい陶歴を残してきた。「赤水窯」の名前は、悲劇の佐用姫の伝説を慈しむ観音像に捧げる湧き水の出る地として、かの地が「閼伽水」と呼ばれるようになったことにちなんでいるとか。 現在は、アトリエとしてのみ使用しているという店内を見渡せば、2代目の象さんの器がずらり。今朝、お造りをいただいたばかりの器も並んでいて、なんだか嬉しくなる。

上:工房の裏には、伝説の松浦佐用姫の悲恋を祀った観音像がある。そして、観音像に捧げる湧き水の出づる地として、この地が閼伽水と呼ばれるようになる。「赤水窯」の名はその伝説にあやかったもの。
下:喫茶店として、愛されていた時代の面影が残るエントランス部分。
上:一つ一つ、器を手にとって、土の感触を確かめる長尾さん。
下:「日本料理かわ島」でも使用している、シャープなフォルムの長皿。青みがかった白磁が美しい。

熊本像さんの経歴と目指す器

熊本さんは、唐津に生まれ、佐賀の有田窯業大学の在学中に岡晋吾さんの天平窯を見学し、卒業後、弟子入り。2006年から2010年まで、基礎的な技術はもちろん、古典を重んじることや、器と料理の関係など、さまざまなことを学んだ。そして、2010年、父親の熊本千治さんが始めた「赤水窯」に戻り、自らの作陶を始めた。
「土ものといっても、比較的硬質な表情のものが多いのですね」と長尾さんが聞けば
「磁器の土を使い、陶器のような質感の釉薬をかけて焼いているんです。一言でいうなら、土ものっぽい磁器というのでしょうか」と答えが返ってきた。なるほど、それを聞いて合点がいく。硬質なのに、どこかほっと和める、緊張感と安らぎのバランスの妙の理由はそこにあるのだ。
実際、熊本さんの作品は、主に天草の陶石を用いている。その意図は、よりシャープなフォルムや、繊細な絵付けを可能にするためだという。では、唐津焼の亜流なのかというと、一概にそうとは言えない。遠い昔、古唐津の陶工たちが、頁岩を砕いて白磁石の代わりとして用い、磁器の代用として古唐津を焼いたという歴史をなぞれば、熊本さんの器もまた、唐津の本流を脈々と受け継いでいるということもできるのかもしれない。

西からの風を感じさせる魅力

「どことなく、大陸を思わせる造形や、グリーンやブルーの色使いは、岡さんの影響も受けていらっしゃるのでしょうね」という、長尾さんの言葉に、熊本さんも頷く。
古伊万里を感じさせたり、明代の絵付けを思わせたり、李朝を想起させる器たち。書物を紐解き、古典に触れる。勉強熱心なうえに、持ち前のセンスのよさが武器となっている熊本 象さん。
「今後は、地元唐津の土を使って、唐津で制作することの意味を明確にしていきたい。磁器の制作で培った造形をヒントに、ハイブリッドな唐津焼が作れれば」と夢は膨らむ。可能性は無限大。その可能性を楽しみに見守りたい。

上:電球をイメージしたフォルム。絵の具代わりにのせた織部の釉薬が、流れに溶け込み、淡いグリーンや紅色に発色する。
下:伊万里、九谷にも見られる、オーソドックスな輪花型。ナイフフォークを使う可能性も考えて艶のある古伊万里の釉をかけている。
奥は、青磁の盃台のデザインをベースにした青磁七寸輪花皿。手前右が古唐津の鉢のフォルムをアレンジした白磁小向付け。手前左が和食器と洋食器の輪花のデザインを織り交ぜた白磁重ね輪花小鉢。

盛りつけ後を見る

赤水窯

佐賀県唐津市鏡4758
tel&fax 0955-77-2061
www.akamizugama.com


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